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(゚、゚トソン都村教授伝奇考のようです 前編 2011年04月16日 日常等 トラックバック:0コメント:0

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:01:33.28 ID:imKBG4aP0 [2/65]
――ガタタン、ゴトトン。

先程までビル街を映していた車窓は、いつの間にか田園風景に切り替わっていた。
薄く開けた窓から入ってくる風は、僕らが住んでいる都会とはまるで違る。

『空気がおいしい』だなんていう在り来たりな台詞に対して
いささか懐疑的であった僕だが、今日この日を持って考えを革めよう。
たしかに田舎の空気はおいしかった。

夏の特有の香りと田んぼに張られている水のかすかな清涼感が胸を満たす。

しかし、僕が窓を開けている理由はおいしい空気を胸いっぱいに吸い込むためではない。

僕の座るボックス席の向かい。

その向かいで懸命に駅弁を貪っている女性が原因である。

(゚、゚*トソン「ハムッ!! ハムハムッッ!! モグモグモグーッ!!!」

彼女はかれこれ三時間に渡って18個もの駅弁を食べ続けている。
その駅弁が発する食い物の匂いに耐え切れず、僕は窓を開け放っているのである。
既にこの電車に乗り込む前に昼食を済ませていた僕にとって
食い物の匂いを嗅ぎ続けるのはあまり気の良いものではなかった。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:02:48.97 ID:imKBG4aP0 [3/65]
しかしそれは彼女も同じであるはずなのだ。
というか彼女は昼食のラーメンを三杯ほど御代わりまでしていたはずなのに。

僕は彼女の華奢な体つきをマジマジと眺める。
一体その体のどこに大量の食物を吸い込んでいるのか。

そんな僕の疑惑の視線に気付いたのか、彼女は箸を止めると
口の端にご飯粒をつけたまま顔を上げた。

(゚、゚*トソン「なんですか? あげませんよ?」


(;‐∀‐) 「いらないですよ」

(゚、゚*トソン「本当に? おいしいですよこのタケノコの煮付け」

(;‐∀‐) 「いや、もう匂いだけでお腹いっぱいというか……」

(゚、゚トソン「男の子はもっと食べなきゃいけません」

(;‐∀‐)「貴方が女性の割りに食いすぎなんですよ」

( ・∀・)「教授」



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:04:37.04 ID:imKBG4aP0 [4/65]
そう、この女性は僕の通う大学の教授なのだ。
名前は『都村トソン』。年齢は28歳。

僕の取っているゼミの担当でもある。
僕はその教授に連れられて、夏休みという学生にとって貴重な時間を割き、フィールドワークに行くのだ。
場所は美府村というG県の片田舎。そこで三年毎にしか催されない祭りとそれに関する民話を調べに行くのだという。

教授の専攻は民俗学である。
大学時代は柳田国男に傾倒し、いくつもの村々を渡り歩き
片っ端から民話を編纂した卒論を書いたらしい。

学生時代のあだ名は『テクテクトソン』
日本中どんな場所でもまるで散歩にでも行くように出かけていくことからその名がついたという。
その異常とも言うべき無尽蔵のバイタリティからか
彼女は大学院卒業後、あれよあれよという間に教授という座に登りついた。

そしてそんなテクテクトソンのフィールドワークに何故学生である僕がついていくのかというと
それは僕のまさに悪徳とも言うべき人間性が深く関連している。
面倒なので簡潔に言うが、要は全然講義に参加しないで興味のあることだけしてたら単位が全く取ませんでした、と。

そこでせめて参加しているゼミの教授だけには単位をくれるように頼んでみようと思い立ち、
僕が教授の研究室を訪ねたのが一週間前。
なんとか、どうにか、なにとぞ単位をと土下座までして頼み込んだところ、交換条件付で承諾してくれた。
しかも通年の4単位も貰えると言う。これに乗らない手はまずない。僕は二つ返事でOKしてしまった。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:06:26.34 ID:imKBG4aP0 [5/65]
そしてその交換条件というのが、この教授のフィールドワークに助手としてついていくことだったのだ。
まぁ、その時の僕はちょっとした旅行程度に捕らえていたが実情はとんでもなかった。

今回の目的地である美府村があまりにも田舎過ぎることもさることながら、
教授の荷物は全部持たされ、教授の買う土産(全て食い物)も全部持たされ、
挙句駅に着くたびに駅弁を買ってくるように命令され、
断れば単位の件をちらつかされる。要は体の良い下僕であった。

僕はため息をつきながら窓の外に視線を投げた。
窓の隙間からは辛うじて彼女の貪る駅弁の匂いが流れ出ているらしく、
開けなかった時よりかは幾分かマシに感じる。
どこまで行っても田んぼしか見えないこの風景を眺めていると
まるで世界全てが田んぼになってしまったかのように感じてしまう。

それはとても恐ろしいことのようで、しかし真の平等とはこのような情景のことを言うのではないかとぼんやり思う。

まぁ、この景色を見られて、おいしい空気を吸って、単位も貰えれば、夏休みをちょっと捧げるくらいは十分か。
相変わらずのガツガツという耳障りな咀嚼音をBGMに、僕は静かに目を閉じた。

(゚、゚トソン「モララー君」

そんな僕に気がついているのかいないのか、
彼女は僕の名前を呼ぶ。

僕は目を閉じたままその呼びかけに答えた。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:07:48.27 ID:imKBG4aP0 [6/65]
( ‐∀‐)「なんですか?」

(゚、゚*トソン「この鶏肉の照り焼きおいしいですっ!」

( ‐∀‐)「……」

(゚、゚*トソン「ほしいですか? 私から取り上げたいですか?」

( ‐∀‐)「……」

(゚、゚*トソン「鳥だけに……」

( ‐∀‐)「……」

::( 、 *トソン::「ブフゥ……鳥だけに……フフフフ……取り上げ……ウヒヒ」プルプル

( ‐∀‐)「……」

……やっぱちょっと帰りたいかもしれない。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:09:10.26 ID:imKBG4aP0 [7/65]







                            都村教授伝奇考のようです

                              『ほらいず様/前編』









31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:10:25.98 ID:imKBG4aP0 [8/65]
(゚、゚トソン「もふぁふぁーふぅん(モララー君)」

( ‐∀‐)「口ん中のもの全部飲み込んでから話してください」

( ‐∀‐)「ていうか全部喰ってから話してください」

(゚、゚トソン「ふぁい(はい)」

教授は黙々と駅弁を消費する。
僕は薄目を開けながら彼女の食い方を見ていた。
すると奇妙な点を三つ発見する。

まず一点目。
彼女は一口が異様に小さい。
ご飯なんかは10粒程度しか箸に乗せていないんじゃないかと思う。
その代わりに箸を超高速で駅弁と口の間を往復させているのだ。
……なんかキモイ

二点目。
箸で小さく出来そうなおかずは全て細切れにしていく。
タテ4cm、ヨコ3cm程度のダシ巻き卵は48分割している程だ。
レンコンなどの硬いおかずはめちゃくちゃ小さく齧っては元の位置に戻していく。
まるでハムスターか何かの食事のようだと思う。

三点目。
同じおかずを続けて食わない。
例えばダシ巻き卵→ご飯→煮物→ご飯→鳥の照り焼き→ご飯……というように
おかずの間にご飯を挟みつつローテーションさせて食っているらしい。
……これはやる人もいるだろう。ただ前述の通り一口が小さい上に速いので
やはりちょっと気持ちの悪い食い方だと思う。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:11:46.31 ID:imKBG4aP0 [9/65]
そこまで観察して、僕は何をしているのだろうと我に返った。
結婚適齢期を過ぎようとしている行き遅れの食事法の観察など
僕の人生においてなんの得も影響もないのだ。

また視線を窓の外に戻す。
日はもう落ちかけている。昼に出て、この日の落ち方という事は
はやり美府村は都会から物凄くかけ離れたところにあるのだという事を実感させられる。

しかしこの電車から見ても民家などほとんど見つからないのに
果たして祭りなどが本当に行われるのか疑問に思う。
人間がいないと祭りは成立しないだろう。

そこまで考えて、僕は魑魅魍魎の類が宴会を開いている様子を想像してしまい
ぞくりと背中を波打たせた。
何を馬鹿な。ゲーテじゃあるまいし、田舎=妖怪が出るなどという固定概念を自分が抱いていたなんて。
己の純真さにちょっぴりの感動と大いなる苛立ちを覚えながら、僕は教授に話しかけた。

「教授、全然民家とかないんですけど、本当にお祭りなんか催されるんですか?」

(゚、゚トソン「……ッゴクン!! お茶」

( ・∀・)「……はい」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:13:24.12 ID:imKBG4aP0 [10/65]
(゚、゚*トソン「ゴキュゴキュ……ぷは」

( ・∀・)「……」

(゚、゚トソン「……そうですね。この風景を見ていると不安になるかもしれませんね」

(゚、゚トソン「でも大丈夫ですよ。この辺はたまたま田んぼ農家の方々が密集している土地なだけてす」

( ・∀・)「密集……。民家の殆ど無いこの景色で使う言葉じゃない気もしますけど」

(゚、゚トソン「まぁ一つの農家が東京ドーム程度の田んぼを有しているわけですから、
密集しているのは農家の方の家というよりも田んぼの方ですけどね」

( ・∀・)「はぁ」

(゚、゚トソン「でも、目的地の駅は温泉街のすぐ近くですから、ある程度観光地化されていて、人も多いそうです」

( ・∀・)「温泉街ですか。いいですね」

(゚、゚トソン「ちなみに今日から三日間泊まる予定の旅館もその温泉街にありますよ」

( ・∀・)「わぁ、それは素晴らしいですね」

(゚、゚トソン「フィールドワークは足が基本です。いっぱい歩いて汗をかきますから、温泉は欠かせません」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:15:11.71 ID:imKBG4aP0 [11/65]
( ・∀・)「はぁ、なんだかちょっとだけ希望が湧いてきました。楽しそうですね」

(゚、゚トソン「そうです。民俗学におけるフィールドワークの重要性はかの柳田……」

(; ・∀・)「あー! いいっす! 柳田先生の話は研究室で十分理解しましたから!!」

(゚、゚トソン「……そうですか? じゃあ問題ですっ」

(; ・∀・)「おぼっ……イキナリっすか……」

(゚、゚トソン「柳田先生は何故フィールドワークが重要だとおっしゃったのでしょうか」

(; ・∀・)「え、えーっと……確か、フィールドワークが重要って言うか、定義付けが逆で……、ええーっと
      文献資料に頼り切った調査は非常に真実が偏りやすくて危ないから……実際に現地に赴いて
       情報のねじれを正す意味でフィールドワークを用いる……でしたっけ?」

(゚、゚トソン「まぁ、大体はそんな感じです。なんでこれから行く美府村ではしっかりと調査しましょう!」

(゚、゚*トソン「いわば我々は『都村トソン探検隊』なのですっ!」

(; ・∀・)「そんな藤岡弘探検隊みたいに言わなくても……」

(゚、゚#トソン「あの人たちはダメです!」

(; ・∀・)「何故に」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:16:28.91 ID:imKBG4aP0 [12/65]
(゚、゚#トソン「まだ日本の謎なんて全然残ってるのにやれ海外だー、宇宙だー、海底だーなどと……」

(゚、゚#トソン「日本人ならまずこの母なる日本からでしょ!」

(゚、゚#トソン「まずは足元を踏み固めてからでないと何事もっ!」

( ・∀・)。o(右翼はいってんのかな……?)


「クスクスッ」

藤岡弘探検隊を熱く批判する教授をあきれた視線で眺める僕の耳に、女の人の含み笑いが聞こえてきた。
なんだろうと思い視線をそちらに向けると、通路を挟んで向かい側のボックス席に座る女性が口元に手を当てていた。
前には杖を突いた若い男性も座っている。

僕が二人を見ていると、女の人が僕の視線に気付いたのかバツの悪そうな顔をして口を開いた。

(;゚O゚)「あ、ご、ごめんなさい」

( ・∀・)「いえ、うちの教授がうるさくてすいません」

僕の軽い冗談で気が解れたのか、彼女はパァと明るい表情になった。
そのまま彼女は僕に話しかけてきた。教授は既に次の駅弁に取り掛かっていた。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:17:47.27 ID:imKBG4aP0 [13/65]
(*゚ー゚)「そちらの方、教授なの?」

( ・∀・)「はい、大学の」

(*゚ー゚)「まだ若いのに凄いね。ね、ギコ君」

(;,,゚Д゚)「お、俺に話を振るのか!?」

(*゚ー゚)「クスクス。あ、ごめんね、私はしぃって言います。で、こっちの朴念仁がギコ」

( ・∀・)「僕はモララーって言います。こっちの大食漢は都村教授です」

(゚、゚#トソン「ふぁふぇふぁふぁいふぉっふぁんふぇふっふぁ(誰が大食漢ですか)!!」

( ・∀・)「はいはい教授。良い子ですから口にモノが入ってる時は喋んないでくださいねー」

(*^ー^)「あははっ!」

(*゚ー゚)「……で、そんな学生さんと教授がこんな片田舎に何しに来たの?」

(*゚ー゚)「ま、まさかっ!!」

(;,,゚Д゚)「お、おい、しぃ」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:19:03.36 ID:imKBG4aP0 [14/65]
(*゚ー゚)「恋!? ラヴ!? 愛の逃避行!?!?」

(,,゚Д゚)「はぁ、始まった……。すまんね学生さん、モララー君だっけ? こいつそういうのに目が無くて」

(; ・∀・)「いや、まぁ、悪気は感じませんから」

(,,゚Д゚)「すまんね」

男の人は僕のほうを向かずにポリポリと頭をかいた。
そういえばこの男の人――ギコさんは一度も僕のほうを向こうとしない。
それどころか窓に視線を向けることも無く、ただ虚空を見ているようだった。
そんな人を探るような視線に気付いたのはしぃさんだった。

(*゚ー゚)「あ、ごめんね。彼、目が見えないの」

(; ・∀・)「……あ、すいませんジロジロと」

僕の悪い癖だ。
気になったものはいつまでも見続けてしまう。
観察癖というか、そういった悪癖が僕にはあった。
過去の経験から僕の視線というものがいかに存在感のあって不快なものか知っているというのに
僕からこの癖が消える様子はない。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:20:20.35 ID:imKBG4aP0 [15/65]
(,,゚Д゚)「気にすんな。どうせ生まれたときから見えないんだ。俺から言わせりゃこっちの暗闇が日常だ」

(゚、゚トソン「……で、お二人もお祭りに?」

(; ・∀・)「おわあ! 急に入ってこないでくださいよ!」

(゚、゚トソン「食べ終わったんで」

(; ・∀・)「はやっ!?」

(*゚ー゚)「ええ、そうなんです。私達、色々なお祭りにいくのが趣味なんです」

(,,゚Д゚)「まぁ俺の仕事柄ってーのもあるけどな」

(*゚ー゚)「で、ネットで調べたらこのお祭りを見つけて。こんな田舎で三日間もお祭りするなんて
    ちょっと気になって、丁度温泉に行きたいねーなんて話してたから、ねっ?」

(,,゚Д゚)「まぁ二人ともコッチのほう出身じゃないからどうしようか迷ったけど、しぃがどうしてもって言うんでな」

(*゚ー゚)「えー、あたしのせいなのー?」

(,,^Д^)「ギコハハハ、まぁ、三日間温泉に祭りに楽しむとするさ」

(゚、゚トソン「そうですか」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:21:39.64 ID:imKBG4aP0 [16/65]
(,,゚Д゚)「そっちはあれだろ? フィールドなんたらって……」

(; ・∀・)「やっぱり聞こえてましたか……教授声おっきいから……」

(゚、゚トソン「あだ名は人間拡声器だったこともあります」

四人で笑いながら会話をしていると、それ以外の音のなかった車内にアナウンスが響いた。

次は、美府駅、美府駅。お降りのお客様はお忘れ物の無いように――。

僕らの目的の駅だ。夏のためまだ日は明るいが、結構な時間のはずだ。
これは観光などせずに旅館に直行だな。

(,,゚Д゚)「お、着いたみたいだ」

(゚、゚トソン「さぁ下僕、荷を持てぃ!」

(; ・∀・)「ついに下僕宣言!?」

(*゚ー゚)「ほい、ギコ君私に掴まるのじゃ」

(,,゚Д゚)「ああ、すまねえな」

(*゚ー゚)「おとっつぁんっ! それはいわねぇ約束だろぉ?」

(,,゚Д゚)「……俺たまにお前のノリ怖い」

(*゚ー゚)「さぁ、暗くなる前に行きましょう♪」



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:23:30.61 ID:imKBG4aP0 [17/65]
僕らは電車を降りると誰もいない改札に切符だけをおいて駅前に出た。
無人駅が初めてだった僕には衝撃だったが、教授はカウンターみたいな場所に
切符をおいてさっさと駅を出て行ったのを見て、やっぱり旅慣れしてるのだと感じる。

駅前に出ると今まで見続けた風景とは違い、ある程度の民家や、酒屋などが出迎えてくれた。
人の温もりって街灯で味わえるものなのだなとしみじみ思う。

しかし温泉街というにはちょっとこじんまりとしすぎている感は否めない。
僕は教授に尋ねる。

( ・∀・)「教授、ここが温泉街ですか?」

(゚、゚トソン「いえ、ここから少しだけ奥に入ったところにあります」

(*゚ー゚)「お二人はどこに泊まるんですか?」

(゚、゚トソン「旅籠屋『素直』というところです」

(,,゚Д゚)「お、なんだ、俺らと一緒じゃねぇか!」

( ・∀・)「そうなんですか?」

(*゚ー゚)「うんっ! この辺では一番いい旅館なんだって!」



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:24:52.09 ID:imKBG4aP0 [18/65]
( ・∀・)「へぇ~。教授、そんな良い旅館に泊まっていいんですか?」

(゚、゚トソン「まぁ、独り身女性なんで金は余ってますからねっ!」

( ・∀・)「おおー!! 寂しい限りだ!!」

(゚、゚トソン「そこは頼もしい限りといいなさい」

(,,゚Д゚)「じゃあボチボチ歩いていくか」

(*゚ー゚)「えー歩きー?」

(,,゚Д゚)「しょうがねぇだろ。ネットで調べたらここのバス、二時間に一本とからしいじゃねぇか」

(*゚ー゚)「そうだけどさぁ。あんな距離歩けないよー」

(゚、゚トソン「……」

( ・∀・)「……教授?」

(゚、゚トソン「ああ、いえ、私達は徒歩でいこうかと思って」

( ・∀・)「そうですよねー。教授は何一つ荷物を持ってませんもんねー」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:26:11.79 ID:imKBG4aP0 [19/65]
(*゚ー゚)「ほらっ! このバス停の下のところにタクシーの広告があるよ!」

(,,゚Д゚)「なんつー隙のない構えだ……旅客からふんだくろうという魂胆が丸見えじゃねぇか」

(*゚ー゚)「まーまーそう言わずに。暗くなってきたら私がついててもギコ君危ないんだから」

(,,゚Д゚)「……そうだな。すまん、俺達はタクシー呼ぶわ」

(゚、゚トソン「そうですか、じゃあまた旅館であったらよろしくお願いします」

(,,゚Д゚)「ああ、気をつけてな!」

(*゚ー゚)「じゃあ、また後で♪」

(゚、゚トソン「さぁ行くぞ下僕っ!」

( ・∀・)「……はぁい」ズッシリ

僕は自分のキャリーバッグと教授の旅行鞄を担いで歩き出す。
しぃさんとギコさんは僕らが見えなくなるまで手を振ってくれた。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:27:34.96 ID:imKBG4aP0 [20/65]
僕は自分のキャリーバッグと教授の旅行鞄を担いで歩き出す。
しぃさんとギコさんは僕らが見えなくなるまで手を振ってくれた。

ちょっとした商店街を抜けると、林道に出た。
木々の間を強制的に切り取ったかのようなこの道の先は、どこかの異世界にでも繋がっているようだった。
それこそ魑魅魍魎達が大宴会でも開いているような、あの世とこの世の入り口にでも。
そう感じるものきっと今が逢魔ヶ刻と呼ばれる時間帯だからだろう。

木々を抜ける夕日は紅く。暗々とした林を怪しく引き立たせる。
一本一本がまるで動物のように枝葉を揺らし、まるで僕らをこの林道に閉じ込めようとしているようだ。

教授は何も言わず僕の前を歩く。肝っ玉の据わった人だと想う。
女の子ならこういう道は苦手そうなのに、教授は一切減速せずズンズン歩く。
ひぐらしの鳴き声と木の葉のさざめきが静寂を食らう。
それ以外は、聞こえなくて。

僕はちょっとだけ息を整えるために立ち止まった。やはり二人分の荷物は重い。
思わず下を向いて溜息をつくと、僕の足元になにかあるのに気がついた。
丁度木々の影を背にして隠れるように突っ立っていたそれは、どうやらお地蔵さんのようだった。

( ・∀・)「教授」

いつの間にか随分離されていた教授を、少しばかり大きな声で呼び止める。
教授は面倒くさそうに振り返ると、しぶしぶといった表情を浮かべながら踵を返した。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:28:54.73 ID:imKBG4aP0 [21/65]
(゚、゚トソン「なんですか」

( ・∀・)「みてくださいよ、これ」

(゚、゚トソン「……ふむ、地蔵、ですかね」

( ・∀・)「だと思います」

(゚、゚トソン「道祖神……ではないようですね」

( ・∀・)「道祖神と地蔵さまってなんか違うんですか?」

(゚、゚トソン「まぁ中世以降は神仏習合で同じようなものと見なされてましたが厳密には全く違います」

( ・∀・)「厳密に全く違う……ですか?」

(゚、゚トソン「道祖神は外界と内界を分つ結界のような役割を持っていました」

(゚、゚トソン「ほかにも恐ろしい『なにか』を祀ったりするためのものです」

(゚、゚トソン「それに比べてお地蔵様は仏教ですから基本的には信仰の対象です」

(゚、゚トソン「ちやほやされなれているんですよ。お地蔵様は」

ちやほやされ慣れている。僕はその言葉にどこと無く寂しさを感じた。


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:30:11.88 ID:imKBG4aP0 [22/65]
( ・∀・)「……あれ?」

(゚、゚トソン「なんです?」

( ・∀・)「いや、この地蔵様、なんか変じゃないですか?」

(゚、゚トソン「……どんな風に」

( ・∀・)「やけにボロボロっていうか。ほら、右の手と左の足がないです」

(゚、゚トソン「……風化……や壊された、という感じではないですね」

(゚、゚トソン「まるで……」

( ・∀・)「初めからなかった……?」


途端生ぬるい風が僕達を包むようにゆったりと通り抜ける。気がつけば僕は背中にべったりと脂汗をかいている。
ミロのヴィーナスやサモトラのニケなどは腕が無かったり、首が無かったりするが、元はしっかりと付いていたのだと言う。
それが壊れたり、あるいは意図的に取り外されたりした結果が、今の僕達が見ることの出来るそれだ。
しかしこのお地蔵様は違う。

初めから手足が『なかった』

そうやって作られたように僕らは感じていた。
厭に丸みを帯びたその手足の無い部分は、まるで本当の『そういう人達』をモデルにしたようで。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:31:27.21 ID:imKBG4aP0 [23/65]
( ・∀・)「気味悪……」

(゚、゚トソン「そうですか?」

( ・∀・)「だって」

(゚、゚トソン「恵比寿様を知っていますか?」

( ・∀・)「え、あ、はい」

(゚、゚トソン「有名なのが七福神ですか」

(゚、゚トソン「でも、あれは日本本来の恵比寿さまではありません」

(゚、゚トソン「日本のエビスは、蛭子《ヒルコ》と書きます」

(゚、゚トソン「イザナギとイザナミの最初の子。不具に生まれ、流された子」

( ・∀・)「……」

(゚、゚トソン「でも蛭子様は神様になることが出来ました。意外と多いんですよ蛭子神社」

(゚、゚トソン「こんな風に『障害者』でも、信仰の対象にはなるのです。信仰に足るお話があれば、ね」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:32:45.70 ID:imKBG4aP0 [24/65]
教授はそれだけ言うと、また林道を歩き始める。
僕は手足の無いお地蔵様を障害者の一言で括れてしまう教授にも薄ら寒いものを感じながら
その小さな背中を追い始めた。

その背中はやはり女の人の狭いものだったが、今の僕には得体の知れない化け物の檻のように感じた。

林道を抜けて、更に20分ほど歩くと煌びやかな灯が目に入る。
それら全てが電気式提灯によるものだと気付くのはもう少し近づいた後だった。
お祭りの準備のためなのか、それとも温泉街という雰囲気作りのためなのかは分からないが
非常に幻想的で美しいものだなと僕は思った。

数百年前に京都に存在した遊楽街の祇園なんていうものを想起させる。
しかしそれらを完全に楽しむにはいささか僕の体力は足りていないようだ。

しぃさん。あんた正解だよ。
タクシー大正解。

たしかに距離はそんなに駅から離れているわけではなかったけど、
傾斜が物凄い。なにせ山に続く道の途中にこの温泉街はあるのだ。
おそらくこのままこの道を真っ直ぐ行ったらあの黒く聳える山に飲み込まれていくんだろう。

土産屋やこの田舎には相応しくないとさえ思えるレジャー店を尻目に僕は黙々と坂を上る。
時たま漂ってくる温泉まんじゅうの匂いだとか、焼き鳥のような匂いに
ああ、僕はいつの間にか腹が減っていたのだと自覚する。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:34:02.80 ID:imKBG4aP0 [25/65]
あんなにもう嗅ぎたくないと思っていた駅弁の匂いでさえ今は懐かしく思う。
とにかくさっさと旅館について、このシシューポスのような苦行から開放されたい。
っていうか教授。その右手に持っているものはなんだ!
いつの間に団子を標準装備できるようになったんだあんたは!

くそう、それを一片たりとも分けてくれようとしない教授に心の中で恨み言をいいながら
僕は黙々と足を動かした。

そうして歩いていると、右手のほうに一際大きく、綺麗で、それでいて真っ赤な建物が見えてきた。
朱色に塗られた柱の間には漆喰の白壁がぴったりと嵌っており、本当に遊郭のような外観をしているなと思う。
入り口と思われる場所に暖簾がかけてあり、さらにその上にはいい感じに形成された巨大な木の板に
暖簾と同じく「旅籠屋『素直』」と彫られていた。

(; ・∀・)「こ、ここっすか」ゼヘェー、ゼヘェー

(゚、゚トソン「そうです。君も休みたいでしょうからとっとと中に入りましょう」

(; ・∀・)「誰のせいだよ……」

外観はとても豪奢だったが、内装は意外にも落ち着いている。
木を基本とした温かみのある作りは、日本人であれば誰でも安らぎを感じるだろう。


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:35:41.53 ID:imKBG4aP0 [26/65]


僕がそんな風に内装を観察していると直ぐに一人の女性がやってきた。
シックな色の着物姿が良く似合う麗人だった。艶のある黒髪を腰まで伸ばし、首の辺りで一つに結わえている。
時代が時代なら天神や太夫にでもなれただろうと言う艶やかさを、落ち着きのある動作で隠している。
少し釣りあがった目には吸い込まれそうな力があり、僕はいつまでも見つめられていたいだとかそんな事を思わず考えてしまう。

普通の女性に比べれば美人の部類である教授なんかもうただのしゃもじにしか見えない程の超美人。
その人がこの旅館の女将さんであるらしかった。

彼女は静々と正座すると、三つ指を突いて僕らに告げる。

川 - -)「ようこそお越しくださいました。都村さま」

(゚、゚トソン「うむ、苦しゅうない」

(; ・∀・)「ちょ、そういうアレじゃないですから!」

( ・∀・)「ていうか何で教授の名前を?」

川 ゚ -゚)「本日男女二人きりでご予約されているのは二組しかありませんで、そのうちのお一組様が
     数分前にご到着なさいましたので」



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 18:37:07.80 ID:imKBG4aP0 [27/65]
( ・∀・)「しぃさん達かな?」

(゚、゚トソン「そうでしょうね」

川 ゚ -゚)「お知り合いで?」

(゚、゚トソン「ええ、まぁ」

川 ゚ -゚)「そうですか。袖摺り合うも他生の縁とはよく言ったものですねぇ」

(゚、゚トソン「それはそうと部屋に案内してほしいのですが」

川 ゚ -゚)「これはこれは申し訳ございません。こんなにお客様が入るのはこの時期だけですから、いささか気分が高揚しているようで。
     では、こちらへ。お履物はそちらの札つきの下駄箱の中にどうぞ。お札はなくさないようにお気をつけくださいまし」

(゚、゚トソン「はい」

川 ゚ -゚)「お荷物、お持ちいたします」

( ・∀・)「あ、大丈夫です。結構重いんで」

川 ゚ -゚)「さようでございますか。では、こちらでございます」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 18:38:32.88 ID:imKBG4aP0 [28/65]
僕と教授はいそいそと靴を脱ぎ、それをしまうと女将さんの後についていく。
外観からしてかなりの大きさだと思ったかが、部屋数はそう多くはなく
女将さんにそのことについて尋ねると、温泉にその敷地の多くを割いているとのこと。

僕らの部屋は二階の角部屋で、窓から見える景色が一番いいらしい。
他にもこの辺の観光スポットだとか、おいしい食べ物だとか、
この旅館内の各施設の場所など
そういった情報を部屋に着くまで教えてくれた。どうやら本当にテンション高いらしい。

僕はあまりその話をまじめには聞いていなかったが
教授は食い物関係の話のみ熱心にメモを取っていた。
こっそりとそのメモ帳を盗み見ると、きったない字で今回の旅の目的と
それから買いたいお土産がびっしりと書かれていた。
本当にこの人の頭の中には民俗学と食い物しかないのだとつくづく思い知らされる。

川 ゚ -゚)「こちらでございます」

女将さんがスッと襖を引くと、そこに待っていたのは僕の想像をはるかに超える『良い部屋』だった。
さすが伊達に行き遅れてないだけの事はあるんだな教授。これは金が余ってるってのも強ち冗談じゃなさそうだ。
僕と教授が室内に入ったのを見計らって、後についで女将さんも入ってくる。
そして置いてあった電気ポットと茶筒の中の茶葉で緑茶を入れてくれた。
なんとも素早いもてなしであった。

それを部屋の真ん中にある大きめのテーブルにそれぞれ置くと、もう一度三つ指を突いて告げる。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 18:40:35.95 ID:imKBG4aP0 [29/65]
川 ゚ -゚)「では、長旅で疲れていると思いますのでまずは温泉などいかがでしょうか。
      こちらはその間に夕餉の支度をしてまいりますので」

( ・∀・)「いいですねぇ」

(゚、゚トソン「温泉の後に夕飯かぁ。これだけいい旅館だと料理も期待しちゃいますねっ!」

川 ゚ -゚)「ふふ、私達姉妹存分に腕をふるわせていただきます」

( ・∀・)「……姉妹?」

川 ゚ -゚)「ああ、余計なことを喋ってしまいましたかね」

( ・∀・)「いえ、そういう訳では」

川 ゚ -゚)「この『素直』では長女の私、『素直 空』を含む素直家の四姉妹で切り盛りしておるのです。
     もちろんそれ以外の従業員も雇うておりますが、基本的には私どもでお客様を持て成させて頂いております」

( ・∀・)「へぇ、なんか凄いですね」

川 ゚ -゚)「……ええ、代々やっている家業でございますから」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 18:42:23.61 ID:imKBG4aP0 [30/65]
(゚、゚トソン「……あの」

川 ゚ -゚)「なんでございましょう?」

(゚、゚トソン「夕食なんですけど、ご飯はお櫃ごと貰えますか?」

川 ゚ -゚)「……ふふ」

川 ゚ -゚)「そうですね。殿方が全て荷物をお運びでしたものね、お腹も空きましょう。
     やはりお若い男性は沢山食べますものね」

(; ・∀・)。o(違ぇ!! 食うのは全部この女だ!!)

(゚、゚トソン「はい、そうですね。彼も食べ盛りなので」

( ・∀・)「は?」

(゚、゚トソン「……」ツネリッ

(; ・∀・)「いってぇ!! なんで内腿つねるんすか!!」

(゚、゚トソン「うるさいですよ。私はお風呂にいきますから」

川 ゚ -゚)「では、私は食事の用意を。浴衣はこちらにありますのでもし良かったら使ってください」

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 18:43:50.12 ID:imKBG4aP0 [31/65]
( ・∀・)「……じゃあ僕も風呂に」

(゚、゚トソン「モララー君はまず荷物整理をしておいてください」

( ・∀・)「えー、なんでですかー」

(゚、゚トソン「女性のほうがお風呂長いんですから、男の君は荷物整理後にお風呂で丁度いいんです」

( ・∀・)「ぶーぶー」

(゚、゚トソン「たんい」

( ・∀・)「はいっ! しっかりと整理します!!」

川 ゚ -゚)「ふふ、では、ごゆるりと」

女将さん――空さんは音もなく静々と部屋を後にした。
僕は空さんの入れてくれた緑茶をすすりながら教授のお風呂の用意を眺めていた。
実は僕は温泉にくるのが初めてで、イマイチ何を持って行けばいいのか分からなかった。
だからそこは旅のプロである教授を見て覚えようと思った。

……なんだバスタオルと下着だけでいいのか。
それなら僕も持ってると安心したところで、彼女がなにやら小さなポーチを持っているのに気がついた。


91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 18:45:26.85 ID:imKBG4aP0 [32/65]
( ・∀・)「教授」

(゚、゚トソン「……なんです?」

( ・∀・)「そのポーチには何が入っているんですか?」

(゚、゚;トソン「え゛!?」

( ・∀・)「え?」

(゚、゚;トソン「うーわー。そういうの聞くんですか君は」

(; ・∀・)「え!? なんか聞いたら不味かったですか!?」

(゚、゚;トソン「いやーまぁ、一応合法ですけどぉー。女の子の持ってるポーチ類には男性は触れてはいけないという暗黙の了解が」

(; ・∀・)「わーごめんなさい!! 僕温泉に来るの初めてで何を持っていけばいいのか分かんなくてそれで!!」

(゚、゚トソン「……なんだ、そうですか。まぁ替えの下着とバスタオル。あと髭剃りたいなら髭剃りと後歯磨きセットとかでいいんじゃないですか?」

(; ・∀・)「あ、そうなんですか」

(゚、゚トソン「まぁ男性のほうはよく知らないですけど、女性はこんなものですよ」

( ・∀・)「そっか、ありがとうございます」

(゚、゚トソン「じゃ、荷物整理してから温泉に行くんですよ」

( ・∀・)「へーい」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 18:47:19.90 ID:imKBG4aP0 [33/65]
(゚、゚トソン「あーそうだそうだ。浴衣浴衣っと」

(゚、゚*トソン「やっぱり温泉にきたら浴衣を着ないといけませんっ」

教授は綺麗に畳まれ帯でくくられている浴衣を一つ抱きかかえると、いそいそと部屋から出て行った。
さぁ、僕は荷物整理か。とは言ってもやる事といえば部屋の隅に僕と教授の旅行鞄を置くだけだ。
お茶を飲み干し、立ち上がる。さ、とっとと終わらせて僕も温泉を堪能しに行こう。

そんなことを考えながら教授の鞄に近づくと、なんと開きっぱなしだった。
中からは様々な書物と、その間に挟まっている下着が見えている。
……まったくあの人は。

僕は自分の旅行鞄からお風呂用具一式を取り出すと、博士の鞄と共に窓際に寄せておくことにした。
そのまますっと顔を上げると、夕日が山々に完全に飲み込まれていくのが見える。
夏で日が長いとは言え、午後七時にもなるとやはり都会田舎に関わらず夜の帳が降りるものか。
少しだけ開け放った窓から、むんとした熱気をはらんだ風が流れ込んでくる。
こりゃ今日も熱帯夜だぞっと。僕はぼんやりと思いながら浴衣を引っつかみ部屋を後にする。

確か一旦階段で一階に下りてそのまま右、突き当りが大浴場だったっけかな?
あまり真剣に女将さんの話を聞いていなかったので曖昧だ。
でもまぁ、迷ったら従業員さんに聞けばいいか。確か一階のロビーに見取り図もあるって言ってたし。


101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 18:49:18.41 ID:imKBG4aP0 [34/65]
足元に等間隔で置いてある間接照明にふんわり照らされた廊下はどこか物悲しげな雰囲気を湛えている。
本当に江戸やそこらの時代の旅館に迷い込んでしまったかのようだ。
見える範囲では鉄やガラスなどといった現代を思わせるようなものが無く、
細部までこだわりを感じるつくりだ。障子にぬらりと反射する僕の影が頷いた。

階段を下りるとロビーに着く。幾つかの椅子とテレビ、それに自販機などが置いてある。
自販機の中にはビンタイプのものもあり、そこには牛乳各種が詰め込まれていた。
なるほど日本人ならば風呂上りは牛乳か。僕は鞄の中にお財布を置きっぱなしだったのを少し後悔しながら右に曲がった。

二階の廊下と同じく灯は足元にある行灯を模した間接照明だけだ。
背後のロビーからの強い明かりが途切れる頃には、また江戸時代にタイムスリップした気分に囚われる。
左手はどうやら大広間や宴会場らしく、今は明かりが入っていない。
右手は結構広い中庭で、竹林と、小さな瓢箪型の池がある。
中庭には下りていけるようになっているのか、廊下の柵が途切れている場所の下にはつっかけが配置してあった。

僕はなんとはなしに中庭にでる。つっかけは僕の足よりすこし小さく、窮屈なものだった。
中庭と言っても四方を建物に囲まれているわけではなく、一辺だけは延々と竹林が続いている。
あの竹林を通り抜ければ、きっと旅館の敷地外に出てしまうのだろう。

――ちりん。

竹林がと風が奏でるさざめきの中に、澄んだ音が小さく響く。
ちりん。小さい鈴の音だ。僕はその音がする方向へ向き直る。
ひょうたん池の方だ。黒々とした水を湛える池の縁に誰かがしゃがんでいた。
もう日が落ちてだいぶ立つのでその姿がはっきりと見えない。
ただ、その膝を丸めた姿の小ささからどうやら子供であるらしいことは辛うじて分かる。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 18:53:14.92 ID:imKBG4aP0 [35/65]
他の客の子供かな。
僕はそう思いながらも、その子供から目が離せない自分に気がついた。
子供は池を指差したり、引っ込めたりして遊んでいるらしい。
きっとあの池には鯉でもいて、それをからかっているのだろう。
それは別にいい。ただ、着ている物が、明らかにおかしい。

――――日の光の代り、天にあるは月光。

強い風が吹いた。奏でるさざめきはより大きくなり。
今まで漆黒でしかなかった中庭に光が入る。月にかかる雲が流れたのだ。
池の縁にある稚児は、真紅の着物を羽織り、薄気味悪く笑らっていた。
裸足の足首には小さき鈴が付けられ、稚児が身じろぐたびに音を鳴らした。
肩口で綺麗に切りそろえられた黒髪が風に暴れる。
が、以前顔は見えず。男か女かも分からず。
ただ、薄気味悪く笑っていた。

僕は目が離せなかった。月光の中真っ赤に映える着物に目が釘付けになっている。

――――ちりん。

子供はやがて池の鯉に飽きたのか、紅の着物を翻しながら立ち上がると
とてとてと竹林の方へ走っていった。
僕は慌てて追いかける。その時は何故そんなことをしたのか自分でも分からない。
が、今思い消してみればきっとその理由は至極単純なことで
僕はあの子をもっと観察したかったんだ。

駆ける中で池に視線をやった。なにもいなかった。ただの水溜りだったのだ。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 18:55:21.86 ID:imKBG4aP0 [36/65]
僕はつっかけのまま竹林に飛び込んだ。目印である赤を見失わないように駆ける。
もう二十歳を超えて成長しきった僕の体では、この竹を通り抜けるのにいちいち身をくねらせなければならない。
それに対して着物の子供はまるで子天狗のようにスルスルと抜けていく。

きっとここはあの子の庭なのだ。僕は必死に喰らいつく。

数メートル後ろはあの旅館の筈なのに、もう永久に帰れないように思う。
きっとこの竹林の向こう側は黄泉の国で、あの子供は愚かな僕を引きずり込もうとする悪霊か何かで。
つっかけじゃ思うように走れず、徐々に僕と赤と差が開いていく。
さらにまた月に雲がかかったのか、辺りが暗闇に飲まれ始めた。
それでも僕は追いかける。そうしなければならないかのように。

僕にとって、気になるとは原動力の全てであるらしかった。
あの観察癖も、こうして子供を追いかけているのも全ては僕の内側に巣食う好奇心という怪物のせいであって。
この好奇心のせいで子供の頃から死にかける様な体験を何度も繰り返してきた。
大学に入り、自分自身大人になったという自負から一旦この化け物は形を潜めていたが、
今回のフィールドワークという事案と、あの不可解すぎる井出達の子供という存在が相まって
きっとあの頃の好奇心が生きる全てであった頃の僕に戻りつつあるのだ。

だから僕は一心不乱に子供を追う。

116 名前:>>100超えたのでちょっぴ減速しますナリ[] 投稿日:2011/04/14(木) 18:56:53.63 ID:imKBG4aP0 [37/65]
笹の葉が頬を切り裂いた。それでも僕は止まらない。
枝がぴしゃりとわき腹を打つ。それでも僕は止まれない。
夜空の雲が完全に月を覆ったのか、1m先も見えないほど
辺りは暗闇に閉ざされた。既に子供は見失っている。

それでも僕は手を前に突き出し、竹にぶつからないように注意しながら漫然と歩を進めた。
しかし前方にのみ注意を払っていたのがいけなかった。
足元の窪みにつっかかり、思わず前につんのめる。
そこに丁度よく青竹が背をのばしており、僕は鼻っ柱を強く打ち付けた。短い悲鳴。

それを合図に風が吹き、さざめきは大きくなった。
そうして鼻頭をさすっているうちに月光は再度竹林に降り注ぎ

僕一人がここに残った。

完全に子供を見失った僕は肩で息をしながら呆然と立ち尽くした。
後ろを振り返ればかすかに旅館の明かりが見える。
アレを目印にすれば普通に帰れそうだ。
旅館の竹林で遭難などとは笑えないジョーク一直線だ。それはどうやら避けられそうで。
しかし、僕は戻ることはしなかった。なんとなく、いけるところまで行こうと思った。
せめてこの竹林の向こう側だけは見ておこう。それでとりあえず僕の好奇心に区切りがつく。

先程よりもかなりゆっくりなペースで僕は歩き始める。
月明かりも入ってきてるのでそこそこ見通しが良くなっている。
それでもなお危なっかしいことには変わりないので足元には注意を払う。

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 18:59:16.55 ID:imKBG4aP0 [38/65]
――――ちりん。

鈴の音が聞こえた。竹の壁の先に何か見える。
僕の歩は必然的に速くなる。
息巻いて竹群から飛び出ると、目の前に現れたのは大きな蔵だった。

僕は反射的にある民話を思い出す。
確か東北の方の話で、『マヨヒガ』というものだ。

ある旅人が薄気味悪い森で遭難してしまう。途方にくれ歩き続けていた旅人だが
急に視界が開けたかと思うと、そこには大きなお屋敷があった。
あれほど生い茂っていた大樹たちもその空間だけは避けるように曲がって生えている。

旅人は一晩止めてもらおうとその屋敷に入るが誰もいない。
しかし囲炉裏では汁物が煮られ、風呂は沸いている。
先程まで誰かがここで生活していた後がそこかしこに残っている。

不気味に思いながらも旅人は誰もいないのをいい事に幾つかの値の張りそうな食器類をくすねてその屋敷を後にした。
すると不思議な事にあんなに迷い続けた森をすんなりと抜けることができた。

旅人は家に帰り、試しにその食器類を使ってみた。
そうしたら驚くことに皿からは常に上手い料理が出現し、食べても食べても無くなることが無かったという。

これに味をしめた旅人は再度あの森に入った。もちろんあのお屋敷から更に物を盗むためである。
しかしお屋敷にたどり着くことは二度と無かった。

というのがマヨヒガというお話だ。
まぁ実際に僕が見ているのはお屋敷ではなく蔵だし、対して迷っている訳でもないので
この蔵が『マヨヒガ』であるわけはないのだが。

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 19:01:35.34 ID:imKBG4aP0 [39/65]
蔵の先はどうやら崖になっているらしく、つまりこの蔵は崖先にたった一棟だけぽつんと立っていることになる。
もう一度振り返る。旅館の明かりは小さくはなりはしたものの以前見ることができた。
旅館からそうは離れていないが竹林を経なければ来ることができないような場所に何故蔵があるのだろう。

もしかしたら薄暗くて気がつかなかっただけでもっと楽な順路がどこかにあったのかもしれない。
しかし何故崖先などという危険な場所にわざわざ?
土壁を漆喰で塗り固められた古く大きな蔵。その入り口には大きな閂がかけられ、更にその閂のサイズに見合った錠がついている。
閂も錠もだいぶ錆び付いてるらしく、赤錆が所々ささくれの様に剥げていた。

あの鈴の音はこの中から聞こえてきたのだろうか。僕はその異質な建造物を見上げる。
いつの間にかさざめきも止み、辺りには僕の呼吸音だけが薄く響いていた。

ふいに、本当に急に、大蔵を見上げる僕のうなじに視線が突き刺さった。
僕の人生において視線を感じるなんていうことは今まで一度も無かった。
鈍感なのか、それともそういうある種感覚的、霊的なことは一切信じていなかったからかは
分からないが人の視線という物質でもなんでもない不可視のものを人間が感じられる
なんて言うのは妄言だと思っていた。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 19:02:58.99 ID:imKBG4aP0 [40/65]
しかし今、確かに僕は視線を感じている。
うなじに生える産毛がちりちりと震えている。
ねっとりとした感覚が背筋を上下になぞる。
時たま、じくりと首筋に何か刺さったかのように痛みが走り、
視線が刺さるという諺は嘘ではないことを知る。

振り返れない。

振り返らないじゃなくて振り返ることができない。
僕は穴が開くほど錠前を見つめているふりをした。
実際には焦点なんてどこにもあっていない。
何かとてつもなく悪い事をしたのが親にバレそうになっている子供のように
僕は体を萎縮させながら冷や汗ばかりをこめかみから流した。


「もし」


声がした。途端に僕にかけられた呪縛が解ける。
物凄い速度で振り返った僕の形相は、それはそれは不細工だったことだろう。

そこにいたのはまるで能面のような表情を貼り付けた女将――空さんだった。
竹壁の前に幽鬼のように立ち尽くした彼女を月明かりが照らしている。
また竹林のさざめきが始まり、心地よい喧騒が僕らを包んだ。
彼女はゆっくりと口を開く。

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:04:32.26 ID:imKBG4aP0 [41/65]
川 ゚ -゚)「お客様。なぜこのような場所に?」

( ・∀・)「すいません。中庭から見える竹林の先が気になりまして。
      子供の頃は冒険者に憧れていたもので」

川 ゚ -゚)「あら、それで宝物は見つかりましたか?」

( ・∀・)「はい、でもしっかりと鍵がかかっているんです」

川 ゚ -゚)「それは残念な事でございますね。でもそれはきっと神様の思し召し。
     開けてはならぬと仰っているのです」

( ・∀・)「そのようですね。僕もただの学生に戻りましょう」

川 ゚ -゚)「そうした方がよろしいかと。では、こちらに」

( ・∀・)「この竹林は抜けないんですか?」

川 ゚ -゚)「ええ、危ないですし、ぐるりと回れば旅館の裏につきますので」

( ・∀・)「あらら、完全に無駄骨でしたか」

川 ゚ -゚)「うふふ、でも危険を冒してこその冒険者でございましょう?」

( ・∀・)「そっすね」

川 ゚ -゚)「うふふ」

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:06:09.36 ID:imKBG4aP0 [42/65]
僕自身、自分でもビックリするような冗談が口からでる。
冒険者って。しかしそれに空さんは軽く答えてみせる。
それからの二言三言はきっと牽制。お互いが相手の手の内を探るような会話。
きっとこの蔵にはなにかあるのだ。そう思わずにはいられない。
しかしそれについて聞いてもきっと女将は口を割らないだろうし、僕自身もそれを引き出す術を持たない。

なのでここは僕が引き下がるべきなのだ。
軽口を終わらせて、女将の後について竹林に沿って歩く。
そしてそのまま旅館に戻り一風呂浴びて夕飯にするのがきっと正しい選択だ。

……けど、一応。

( ・∀・)「あの蔵、中に何があるんですか?」

すっとぼけたふりをして聞いてみる。さぁヘビが出るか蛇が出るか。
そんな下衆びた好奇心を持つ僕に返ってきた答えは、模範解答というか
酷く簡素なものだった。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:07:36.60 ID:imKBG4aP0 [43/65]
川 ゚ -゚)「知りません」

( ・∀・)「え?」

川 ゚ -゚)「あの蔵は、開けるなとの事なので」

( ・∀・)「どのくらい前から?」

川 ゚ -゚)「知りません。そもそも今の私どもには開ける術がございませんので」

( ・∀・)「……あーわかった。鍵を無くしたんですね?」

川 ゚ -゚)「ふふふ、その通りでございます」

( ・∀・)。o(マジかーい。冗談だったのに)

( ・∀・)「じゃあ誰も中身がなんだから知らないんだ」

川 ゚ -゚)「そうでございますね」

( ・∀・)「知りたくならない?」

川 ゚ -゚)「特には」

( ・∀・)「そっか」

川 ゚ -゚)「ええ」

( ・∀・)「……」

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:08:54.74 ID:imKBG4aP0 [44/65]
川 ゚ -゚)「それとお客様、今後この場所にはお近づきなさらぬよう願います」

( ・∀・)「……はい」

川 ゚ -゚)「切り立った崖になっていますので大変危ないのです」

川 ゚ -゚)「お客様の安全を護るのも当旅館の大事な役目の一つですので」

( ・∀・)「……」

僕は『大人』を取り戻していた。
よくよく考えれば相当迷惑な客に違いない。
これは女将さんのいう事はしっかりと聞いておくべきだろう。

ただ、僕の耳にはいつまでもあの鈴の音が、うなじには視線が残っていた。




137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:10:11.14 ID:imKBG4aP0 [45/65]
***

(゚、゚トソン「おっそ」

( ・∀・)「すいません、色々あって」

あの後僕は女将に案内されて大浴場に行った。
そもそも階段おりて右ではなく左だったのだ。あの時の空さんの話もちゃんと聞いていなければ
ロビーの見取り図すらまともに見ていなかったことになる。
そしてあの中庭、果ては蔵に行き着いたことは僕にとって幸なのか不幸なのか。

とりあえず相当の時間が経っている事を見越して、風呂に入るのは本当にこれ『鴉の行水』といった所で
温泉にまできて僕は何をやっているんだろうとちょっぴり虚しくなりつつも早々と風呂場を後にした。

しかし部屋に戻ると既に教授は大層ご立腹の様子で、
わざわざ何もせず、僕に背を向ける格好で座布団の上に胡坐をかいていた。
こんなシチュ、娘さんを僕にくださいと相手の父親に頼みに行く時くらいしか見たことが無い。

僕はとにかく謙って謝り倒し、なんとか先生の曲がったお臍を元に戻そうと躍起になった。
まったく、結婚適齢期を過ぎた女性が拗ねるところなんて誰も見たくないというのに。

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:11:47.82 ID:imKBG4aP0 [46/65]
( ・∀・)「よっ! 教授っ! 美人さんですよ!」

(゚、゚トソン「ふん」

( ・∀・)「よっ! 教授っ! ギャグが面白い!」

(゚、゚*トソン「……そ、そうですかっ?」

( ・∀・)「よっ! 教授っ! もう28歳! 周りはどんどん結婚とかしてて表面上はなんでもない風を装っているけど内心焦りを隠せない!」

(゚、゚#トソン「……とうっ」シュッ!!

(  ∀ )「ゲボア!!」ドッゴォォオオ!!!

そんな風に教授で遊んでいると、襖がトントンと叩かれる。どうやら夕食が来たようだ。
教授はすぐさま襖に向き直ると、ワクワクを抑えきれないといったように息巻いてどうぞと言った。
それに応じて襖が開かれる。そこにいたのは女将の空さんではなく、まだ顔にあどけなさを残す少女だった。
しかし格好は板前のそれで、料理はこの子が作ったのかなと考える。

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:13:47.14 ID:imKBG4aP0 [47/65]
ノパ?゚)「まいど! お届けにあがりやしたっ!!」

(゚、゚トソン「……」

( ・∀・)「……」

ノハ;゚?゚)「あ、あれ? 間違ったかも!」

(゚、゚トソン「……」

( ・∀・)「……」

ノパ?゚)「どうぞ! お控えなすって!!」

(゚、゚トソン「……」

( ・∀・)「……(可愛いな)」

ノハ;゚?゚)「あ、また違う!」

(゚、゚トソン「……なんでもいいので料理を……」

ノハ;゚?゚)「す、すいませんっ」

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:15:04.38 ID:imKBG4aP0 [48/65]
少女は廊下においてあった料理を運び入れてくる。
僕はあまり料理には詳しくないが、それでも凄いと分かる質と量だ。
胡瓜と昆布の酢の物に、刺身の盛り合わせ。
野菜のてんぷらに、味噌仕立ての鍋物。
そのほかにも小鉢で様々な料理が次々運ばれてくる。
どれもこれもと目移りしてしまうほど見た目も美しくにおいも良い。

思わずくぅと腹がなった。そういや僕は電車を降りてからずっとお腹を空かせていたんだっけ。
自分の腹を押さえながら隣をみると、教授は既に涎を垂らしていた。

(; ・∀・)「教授教授!! 涎! 28歳が垂らしていいものじゃないっす!」

(゚q゚*トソン「ふぇ?」

(; ・∀・)「拭いて拭いて!」

教授は浴衣の袖でぐいと口を拭うが、後から後から涎が溢れてくるらしくやがて彼女は拭くのを止めてテーブルに並べられる料理を再度見つめ始めた。
少女はお櫃からご飯をよそうと、僕らの前においてくれた。

ノパ?゚)「お飲み物はどうしましょう? もうお酒は飲まれますか?」

(゚、゚*トソン「いえっ! 食事の時にはお酒は飲まないと決めてますので!!」

ノハ;゚?゚)「そ、そうですか。では夕食の後にお持ちしますか?」

(゚、゚*トソン「はいっ!! ビールと熱燗を!!」

ノハ;゚?゚)「は、はい!! ではごゆっくりとお楽しみください」

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:16:44.12 ID:imKBG4aP0 [49/65]

ノパ?゚)「お食事が済みましたらこのボタンを押してください」

( ・∀・)「なんかファミレスみたいですね」

ノパ?゚)「なにぶん従業員が少ないもので、お手数かとは思いますが、ご協力お願いいたします」

(゚、゚トソン「はい、あ、それと」

ノパ?゚)「なんでございましょう」

(゚、゚トソン「この旅館の従業員さんで、この辺の昔話に詳しい人はいますでしょうか」

ノハ;゚?゚)「は?」

(゚、゚トソン「もしくはこのお祭りに関するお話に詳しい方とか」

ノハ;゚?゚)「は、はぁ。それならばシュー姉が……いえ、愁という者がおりますが」

(゚、゚トソン「じゃあ、お酒はその方に持ってきてもらっていいでしょうか」

ノパ?゚)「はぁ、構いませんが」

(゚、゚トソン「じゃあお願いします」

ノパ?゚)「わかりました。では、ごゆるりと」

169 名前:さるったでござ候[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:45:42.64 ID:imKBG4aP0 [50/65]
( ・∀・)「あーちょっと待ってください」

ノパ?゚)「なんでございましょうか」

( ・∀・)「あ、いや、名前を聞きたいなと」

ノパ?゚)「……」

ノハ;゚?゚)「……ナンパ!?!!??!?」

(; ・∀・)「いや……」

ノハ*゚?゚)「ダメですダメですお客様と恋仲になるなど料理長である僕がそんなっ!
      ああでもなんかそういう感じに始まる恋も悪くないんじゃないかと思いながらもでも拒否する乙女心!!?!?
      でもラブストーリーは突然にって言うし、ていうか今を逃せばチャンスがないっていうか、僕を連れてにげてっていうか
      なんていうかいっそ婿に入ってもらって一緒にこの旅館を盛り立てて行くしか僕らが幸せになる道は無いんじゃないのかあああ!!!!」

(; ・∀・)「……あの」

ノハ;゚?゚)「はい、なんですかアナタ!!?!?! お風呂にする!?!?! ご飯にする!!??! それとも」

(; ・∀・)「飛躍しすぎだから落ち着いて!! ただ女将の空さんから四姉妹だって聞いてたからそれで気になって!」

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:46:58.39 ID:imKBG4aP0 [51/65]
ノパ?゚)「……」

(゚、゚トソン「……(お腹すいた)」

ノハ'?`)「……離婚ですか」

(; ・∀・)「ちゃうって! だからね、空さんから四姉妹で切り盛りしてるって聞いたから君も姉妹の一人なのかなと」

ノパ?゚)「なんだ、そうなんですか」

(; ・∀・)「……うん(この子、疲れる)」


ノパ?゚)「私の名前は素直 緋衣兎といいます! 当旅館では料理長を務めております!」

( ・∀・)「へぇ、まだ若いのに凄いね」

ノパ?゚)「小さな頃から手伝っておりますので! では、私はこれでっ!!」

( ・∀・)「うん。引き止めてごめね」

ノパ?゚)「いえいえ。では、ごゆるりと」

ヒートちゃんはそういうとさっさか部屋を後にした。
残された僕達は早速この豪華な夕食に取り掛かる。
もちろんしっかりと。

(* ・∀・)「「いただきますっ!!」」(゚、゚*トソン


172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:48:41.24 ID:imKBG4aP0 [52/65]
***

( ・∀・)「それにしても教授」

(゚、゚*トソン「ふぁい」モクモク

( ・∀・)「もう蒐集を始めるんですか? てっきり明日からだと」

(゚、゚トソン「……ゴックン。旅館の方はお客様を楽しませる一環として話術に長けている場合が多いですからね」

(゚、゚トソン「特に地元の郷土品や地理、観光名所やそれに纏わる説話などを網羅している可能性が高いのです」

(゚、゚トソン「でもこの旅館の場合は従業員の年齢層が低そうなのでそこまで期待はしていませんが」

(゚、゚トソン「一人でも『当たり』がいれば儲けものですから」

( ・∀・)「ほうっふは(そうっすか)」モムモム

(゚、゚#トソン「あ゛ー!! それは私が最後に食べようと思っていたイモ天!!」

( ・∀・)「あ、すんません。塩つけて喰っちゃいました」

(゚、゚#トソン「全身の毛穴から辛子出て死ねっ!」

( ・∀・)「辛辣な……」

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:49:59.35 ID:imKBG4aP0 [53/65]
(゚、゚トソン「もう殆ど無いじゃないですか……」

( ・∀・)「まぁそりゃ喰えばなくなりますよ」

(゚、゚トソン「はーぁ、夕食も終わりかぁ」

( ・∀・)「四分の三貴女が食いましたけどね」

(゚、゚トソン「じゃあ、ボタン押してください」

( ・∀・)「へーい」

僕はヒートちゃんに渡された半球型の物体の頂点に着いたボタンを押す。
こういっちゃなんだが、ファミレスにあるこういうボタンを見るとどうしてもおっぱいを連想してしまうのは僕だけでしょうか。
しかもボタンが乳首とか、なんともいえない気分になる。

そんな阿呆なことを考えていると、襖がノックされた。
僕がどうぞと声をかけると、ヒートさんの他にもう一人見知らぬ女性が入ってきた。

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:51:18.99 ID:imKBG4aP0 [54/65]
ノパ?゚)「お夕食はお楽しみいただけたでしょうか」

(゚、゚トソン「はいっ! 大満足です」

ノハ*゚?゚)「そうですかっ! では、食器を片付けますね」

lw´‐ _‐ノv「お酒のほうは、私がお供させていただきます」

切れ長の目をした女性は、抱えていた大量の酒瓶を丁寧にテーブルに置く。
ヒートちゃんは、なべに使った小型のコンロだけ残してその他の食器類を全て一人で持っていった。
あの子はあの子でしっかりとこの旅館の大切な一員として働いているのだなとしみじみ思う。
コンロは熱燗作りに使うのだろう。

lw´‐ _‐ノv「では、お二人ともコップの方を」

(゚、゚トソン「ちべたっ」

( ・∀・)「コップも冷やしてあるんですね」

lw´‐ _‐ノv「ビールはそれが一番でございますから、では失礼します」

(゚、゚トソン「おっとっとっとっとっと……」

lw´‐ _‐ノv「ふふ、お上手でございますね、では殿方様も」

( ・∀・)「ありがとうございます」

187 名前:>>178修正[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:54:44.94 ID:imKBG4aP0 [56/65]
lw´‐ _‐ノv「そして私もー」

( ・∀・)「え?」

lw´‐ _‐ノv「え?」

( ・∀・)「飲むんですか?」

lw´‐ _‐ノv「飲みますとも?」

(゚、゚トソン「飲みますよねー」

lw´‐ _‐ノv「「ねー」」(゚、゚トソン

( ・∀・)「……」

lw´‐ _‐ノv「うっひょー、これだけが楽しみで働いてるんですわー」

lw´‐ _‐ノv「じゃあ、三人とも注げたところで」

lw´‐ _‐ノv「今回の旅の無事とかその辺祈りましてっ!」

lw´‐ _‐ノv( ・∀・)「「「かんぱーいっ!!!」」」(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「ゴッゴッゴッゴッゴ……ップハ!!! あーおいしー」

lw´‐ _‐ノv「うめぇよ。酒うめぇよぉおお」

( ・∀・)「ゴクゴク……」

191 名前:>>178修正[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:56:09.60 ID:imKBG4aP0 [57/65]
lw´‐ _‐ノv「あ、申遅れました。わたくし素直家次女で世話長をしております、素直 愁と申します。以後お見知りおきを」

(゚、゚トソン「貴女がシュー姉ですか」

lw´‐ _‐ノv「あら、ヒートあたりがその呼び方を?」

(゚、゚トソン「ご名答」

lw´‐ _‐ノv「いやですわあの子ったら。まだ公私の区別がつかないんだもの」

( ・∀・)「でも、随分と若く見えましたよ」

lw´‐ _‐ノv「ええ、あの子はまだ16ですから」

( ・∀・)「うへぇ、その若さならまだ遊びたい盛りでしょうに、偉いものだ」

lw´‐ _‐ノv「ふふ、素直家はずーっとそうでしたからねぇ」

( ・∀・)「貴女もですか」

lw´‐ _‐ノv「ええ、わたくしももう十あまりの年になっていた頃には御座敷を駆け回っておりました」

( ・∀・)「立派なもんだ」

lw´‐ _‐ノv「いえ……わたくし共には自由がありませんもので」

( ・∀・)「へ?」


193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:57:25.94 ID:imKBG4aP0 [58/65]
lw´‐ _‐ノv「ささ、グラスが空ですよ。もー一杯」

( ・∀・)「あ、ああ、どうも」

(゚、゚*トソン「私熱燗のみたいでーっすっ!」

lw´‐ _‐ノv「はいな、今ご用意致します」

愁さんはテキパキと熱燗の用意を始める。そんな後姿を見て僕は先程彼女が一瞬見せた陰りの表情を思い出していた。

自由が無い。

その意味はなんとなく分かる。こういう昔ながらの家業をやっている家系にはありがちな話だ。
強制的に跡継ぎやらそこの従業員になることを親やそれよりももっと上の親族に押し付けられるということだろう。
しかし、それだけではないもっと後ろ暗い何かを、僕はあの表情に感じていた。

思い返せばこの旅館は何かおかしい。違和感がある。
その違和感がなんなのかは、まるで霞がかかったかのようにはっきりはしないが
これ以上踏み込むべきではないなにかが旅館を取り巻いているような気がした。

教授は愁さんからお猪口を手渡されると、ちびちびと飲みながら本題を切り出す。

196 名前:>>191名前欄は無視してください[] 投稿日:2011/04/14(木) 19:58:45.05 ID:imKBG4aP0 [59/65]
(゚、゚トソン「それで、貴女はこの辺りの昔話にお詳しいとのとこですが」

lw´‐ _‐ノv「ええ、民話・説話の蒐集が数少ない趣味でして」

(゚、゚トソン「あら、それなら話が早い。私は大学の方で民俗学の研究をしてまして」

lw´‐ _‐ノv「学者先生の方でしたか」

(゚、゚トソン「ええ、まぁ。それで今回私達がこの美府村にやってきたのは明日から開催されるお祭りに関する民話を調査しようという理由からでして」

lw´‐ _‐ノv「はあ、それはまたこんな辺鄙な場所まで難儀な事ですねぇ」

(゚、゚トソン「まぁ半分趣味の様なものですから。あ、これ助手兼下僕のモララーといいます」

( ・∀・)「……どうも」

lw´‐ _‐ノv「はい、どーも」

(゚、゚トソン「で、早速お話の方をお聞かせ願いたいのですが」ゴソゴソ

教授はそういいながら僕達にケツを向け、旅行鞄の中を漁り出した。
どうやらメモを取るための手帳を取り出そうとしているようだ。
数秒ほどで僕らの方に向き直ると、その手にはしっかしと手帳とペンが握られていた。
それを僕の方に差し出してくる。



199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:00:00.38 ID:imKBG4aP0 [60/65]
( ・∀・)「……なんですか」

(゚、゚トソン「助手なんですからー」

( ・∀・)「からー?」

(゚、゚トソン「メモは君が取ってください」

(; ・∀・)「何故に!?」

(゚、゚トソン「いやぁ、私もついに助手を持ったという事で、これからはメモなんかはみーんな助手任せにしてお酒が飲めるんですねっ!」

(゚、゚トソン「今までこんな風に様々な方からお話を伺ってきました」

(゚、゚トソン「その時にご年配の方だとお酒を勧めてくださる方が多かったのです」

(゚、゚トソン「酒の席で長話はするものだという固定概念がきっとお年寄りに蔓延しているのでしょう」

(゚、゚トソン「しかし私は、あくまでも学者でありメモを取らなければなりません」

(゚、゚トソン「アルコールを過剰に摂取した状態ではまともにメモも取れなくなってしまいますから」

(゚、゚トソン「毎回、お断りさせていただいていたのです……っ!」

(゚、゚トソン「大層旨そうにお酒を飲むご老人と向かい合ってただメモを取る私」

203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:01:45.77 ID:imKBG4aP0 [61/65]
(゚、゚トソン「……悔しかったぁ」

(゚、゚トソン「確かにフィールドワークも大事ですが、お酒も飲みたかったっ!!」

(゚、゚トソン「その夢が、今、ついに叶うのです!!」

(゚、゚トソン「君の協力によって!!」

( ・∀・)「……脅迫の間違いじゃ」

(゚、゚トソン「たんい」

(; ・∀・)「やっぱ脅迫!? や、やりますよ! メモとりますよ!!」

(゚、゚トソン「一言一句聞き漏らしの無いように丁寧な字でお願いします」

(; ・∀・)「くそが……」

lw´‐ _‐ノv「ふふ、ではまず何からお話致しましょうか」

(゚、゚トソン「そうですね、では、このお祭りは、どの『まつり』でしょうか」

206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:03:12.21 ID:imKBG4aP0 [62/65]
( ・∀・)「……」

日本の祭りは大きく四つの種類に分類される。

一つは神様に祈りを捧げるための『祀り』

一つは死者や霊魂を慰める『祭り』

一つは尊に様々な物を捧げる『奉り』

一つは政治ごとなどに関する『政』

教授はこの村で行われる祭りがこの内のどれに当てはまるかを尋ねているのだ。
しかし相手は所詮素人であり、この質問はどうなのかとも思ったが存外早く愁さんは答えた。

lw´‐ _‐ノv「慰霊のためのお祭りです」

(゚、゚トソン「そうですか」

209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:04:42.27 ID:imKBG4aP0 [63/65]
lw´‐ _‐ノv「お二方はこのお祭りの名称を知っていますか?」

( ・∀・)「たしか、『ほらいず祭り』でしたっけ?」

lw´‐ _‐ノv「そうです。このお祭りは『ほらいず様』を慰めるお祭りなのです」

(゚、゚トソン「うふふ、意外とあなたもせっかちな方ですね」

lw´‐ _‐ノv「ええ、早く本題に入りたいでしょうと思いましたので」

( ・∀・)「……?」

(゚、゚トソン「では、その『ほらいず様』とは何者なのか、お聞かせ願えますか?」

lw´‐ _‐ノv「ええ、では、どうかおくつろぎながらお聞きくださいませ」

そういうと愁さんは熱に浮かされた病人のように浅く呼吸を始め、
その薄い唇から物語を紡ぎだした。

213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:06:02.88 ID:imKBG4aP0 [64/65]
***

……これよりお話いたしますのは、時代が江戸に移る以前、戦国の世の少し後のお話でございます。
当時この美府の村では美府山から取れる鉱物を主とした経済体制を取っていたそうです。
村では野菜や米を作り、山では石や木を取る。そしてその石を他国に売ることで
戦国時代としてはそこそこ潤沢な生活を送れていたそうです。

そしてその鉱山主体の産業の中で、中枢となっていた人物こそ、『ほらいず様』だったのです。
……いえ、人物と言いましたが正確にはほらいず様がなんなのかは私は知りません。
ただ村人達とはコミュニケーションを取れる存在であったことは確かなのです。

ほらいず様は不思議な力でもって鉱脈をいとも簡単に見つけ出すことが出来ました。
このお陰で村は繁栄したのです。

ところがある時を境に村に『くるみ』が多く現れることになります。

(゚、゚トソン「……くるみ、とは?」

申し訳ございません。くるみが一体なんなのかはこの村でも一部の人間しか知りませんで。
わたくしの様な旅籠の娘には知ることが出来ないのです。
あくまでも私が今お話しているのは知ろうと思えば誰でも知ることの出来る範囲でのお話です。

(゚、゚トソン「わかりました。続けてください」

217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:07:32.47 ID:imKBG4aP0 [65/65]
はい、ええと……どこまで話したことやら。
……ああ、はい、思い出しました。くるみからですね。
くるみが沢山村に現れてから、ほらいず様はそのくるみを引き取るようになりました。
そして鉱山の一角に自分の集落を作り、くるみを使って更に採掘に力を入れるようになったそうです。

元々村において力を持っていた御三家はほらいず様の集落を快くは思っていませんでした。
荒巻の家は武家の家で、大層強い兵士を抱えていました。
蛇尾と埴野の家はそれぞれ協力して神事や政を執り行う神官と巫女の家柄でした。
この御三家が今まで村での大きな決定権を所持していたのですが、
ほらいず様の台頭によって村人の気持ちがそちらに流れるのを恐れました。

そこである噂を流すことになります。

くるみ達が出てきたのはほらいず様のせいじゃ。
ほらいず様は化け物じゃ。くるみを作る化け物じゃ。

酷く単純で稚拙な噂に聞こえますが、効果は大きかったようで。
元々ほらいず様は人かどうかも怪しい存在。魑魅魍魎の類ではないかという噂は以前からありました。
それから村人はほらいず様の集落に食い物を届けに行くのをやめてしまいました。
くるみ達が食い物をねだりにきても追い返すようになりました。
村に出たくるみは片っ端から殺すようになりました。

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:09:42.30 ID:kNf4jUFw0 [1/26]
これに怒ったほらいず様とくるみ達は、ある夏の蒸し暑い日、満月の夜に村を襲いました。
しかも山から降りてくるのではなく、急に村の中に現れたそうです。
きっとほらいず様の妖術に違いない、はやりほらいず様は化け物じゃ。
村人達は疑念を確信に変えて、武器を持ちほらいず様達と戦いました。
荒巻の家も屈強な兵士を何人も使い、くるみ達を殺しました。

しかしくるみ達は強かった。元々炭鉱で働かされていたせいか非常に力が強かったそうです。
戦いは三日三晩続きました。村は焼かれ、田畑は荒れつくして、女子供も殺されました。

結局この戦いは御三家がほらいず様に下ることで終結したそうです。
荒巻の家はほらいず様に永遠の忠誠を誓い、
蛇尾と埴野の家は『ふぶめ』としてほらいず様を神へと祀り、くるみ達を慰める事を誓いました。

それから三年毎に夏の満月になると、この美府祭りが開催されるようになりました。
ほらいず様を祀り、くるみの霊魂を慰める。

それはほらいず様が死んだあとも変わりませんでした。
ほらいず様を祭り、くるみの霊魂を慰める。

これがこの村に伝わるほらいず様のお話と、美府祭りの発祥のお話でございます。

……ご参考になりましたでしょうか。

230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:11:33.45 ID:kNf4jUFw0 [2/26]
(゚、゚トソン「……ええ、とても興味深いお話でした」

lw´‐ _‐ノv「それはよかった」

( ・∀・)「教授」

(゚、゚トソン「なんですか?」

( ・∀・)「僕もお酒、飲みたい」

(゚、゚トソン「メモはちゃんと取りました?」

( ・∀・)「とった!」

(゚、゚トソン「ならばよしっ!」

(* ・∀・)「うっひょー!!」

lw´‐ _‐ノv「おつぎいたしますわ」

(* ・∀・)「ありがとうございます!」

(゚、゚トソン「私もくださーい」

lw´‐ _‐ノv「はいな」

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:12:49.08 ID:kNf4jUFw0 [3/26]
(゚、゚トソン「……ゴッゴッゴッゴッゴ。それにしても気になる単語がいくつかありますね」

( ・∀・)「ええ、僕も思いました」

lw´‐ _‐ノv「ほらいず様、くるみ、ふぶめ、辺りでしょうか」

(゚、゚トソン「その通りです。ちなみに、それぞれどんな字を書くか分かりますか?」

lw´‐ _‐ノv「いえ、口承ですので、漢字などは分かりません」

(゚、゚トソン「ほぉ、口伝ですか。ちなみに愁さんは誰からこの話を?」

lw´‐ _‐ノv「荒巻のおばあさまからです」

(゚、゚トソン「荒巻ってさっきの話の中に出てくる御三家の?」

lw´‐ _‐ノv「そうでございます」

( ・∀・)「へぇ、まだ残ってるんですね」

lw´‐ _‐ノv「ええ」

243 名前:>>235修正[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:17:19.40 ID:kNf4jUFw0 [6/26]
(゚、゚トソン「……となると、蛇尾は……素直家ですか?」

( ・∀・)「は? 何言ってるんですか教授。蛇尾と素直じゃ全然違うじゃないですか。お、しか合ってないですよ」

lw´‐ _‐ノv「いえ、教授さんの正解ですわ」

(; ・∀・)「え゛?」

(゚、゚トソン「いいですかモララー君。昔の氏というものは今の私達からしたらギャグのような付けられ方をしているんです」

(゚、゚トソン「田んぼの近くに住んでたから田原さんとか、藤沢の村に住んでたから藤沢さんとか」

(゚、゚トソン「蛇尾も恐らく大きな蛇をとっつかまえたから蛇尾さんとかそんなものでしょう」

(゚、゚トソン「しかし、そのような付けられ方をした場合、現代では受け入れられない氏も沢山あるのが当たり前です」

(゚、゚トソン「縁起悪そうだったり、なんとなく気持ち悪かったり」

(゚、゚トソン「そういう場合は時を経て徐々に苗字をいい感じに変えていくのです。漢字を変えるだけだったり、ひらがなを入れ替えたり」

(゚、゚トソン「蛇尾も恐らく不吉、もしくは恐れ多いということで少しずつ語感を変化させていったのでしょう」

(゚、゚トソン「へびお、じゃお、じゃあお、しゃあお、すあぁお、すなぁお、すなお、素直」

(゚、゚*トソン「ほら」

( ・∀・)「……ほらって言われても、ギャグじゃん」

244 名前:>>235修正[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:18:44.21 ID:kNf4jUFw0 [7/26]
( ・∀・)「……(なんだろう。ビンタしたい)」

(゚、゚トソン「でも、結構な収穫になりました。本当にありがとうございます」

lw´‐ _‐ノv「いえいえ、わたくしもお酒が飲めましたので」

(゚、゚トソン「では、迷惑ついでにもう一つお願いしてもよろしいですか?」

lw´‐ _‐ノv「はい、なんでしょう」

(゚、゚トソン「明日、是非その荒巻さんのお宅に伺ってお話を聞かせていただきたいのですが、アポ等をとっていただけるでしょうか」

lw´‐ _‐ノv「……構いませんが、わたくしが言うのもなんですがあそこの現トップの方は相当な偏屈でして」

lw´‐ _‐ノv「まぁ、承諾いただける可能性は低いかと思いますので、それだけはご了承ください」

(゚、゚トソン「はい」

lw´‐ _‐ノv「では、明日の朝餉の時にでもお知らせいたします」

(゚、゚トソン「お願いします」

(゚、゚トソン「じゃあ」

(゚、゚*トソン「飲みますかっ!!」

lw´‐ _‐ノv「うっひょー!!!」



247 名前:>>244名前欄は無視してええええええ!![] 投稿日:2011/04/14(木) 20:20:03.72 ID:kNf4jUFw0 [8/26]
***

僕らの飲み会が終了したのは丁度日を跨いだ辺りだった。
教授は熱燗をちびちびと飲みながらいかに柳田国男先生が現代民俗学の開祖として素晴らしい結果を残したか語り、
愁さんは日本酒を一升瓶のままラッパ飲みして米がどうのこうのとぶつくさ呟き、
僕はそんな二人を尻目にテレビをつけて下らないバラエティをつけながらビールを煽っていた。

全ての酒瓶を開けるとさすがに全員が全員もう酒はいらないといった様相を呈していて。
自然な流れでお開きにすることにした。愁さんは前後不覚になっているのかふらふらとした
足取りで酒瓶を抱えて部屋を出て行った。では、また朝餉の時にでもという言葉を残して。

僕らもさすがに長旅の疲れが出てきて早々に寝ることにした。
奥の座敷にはこの部屋と同じ間取りの畳部屋があり、
どうやらここに布団を敷いて寝ろということらしい。

教授はべろんべろんの千鳥足で押入れを開けると布団一式を引っ張り出し、僕の目の前に放り投げた。


249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:21:21.47 ID:kNf4jUFw0 [9/26]
('q`*トソン「うふふふふ、まららぁ君は、女の人と一緒に寝るのは平気なんですかぁ?」

( ・∀・)「ええ、子供じゃないですから。さすがに布団は離しますけどね。二人とも壁際です」

('q`*トソン「その必要わぁ、なぁ~いっ!! と思いますぅううう」

( ・∀・)「……え?」

('q`*トソン「だってぇ~、わたしはぁ~」

(; ・∀・)「そ、そういえば何で布団を一組しか出さないんですか!」

('q`*トソン「うふふふ、まららぁくぅん」

(; ・∀・)「ま、まさか、そんな、教授! 僕の名前はモララーですから!」

('q`*トソン「えーっとねぇ、そのねぇ」

(; ・∀・)「え、マジなんなんですか教授。なんでふらつきながら近寄ってくるんですか!?」

252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:22:37.70 ID:kNf4jUFw0 [10/26]
(; ・∀・)「……」

('q`*トソン「……」

(; ・∀・)「……」

('q`*トソン「……」

(; ・∀・)「……」

('q`*トソン「……あのぉ」

(; ・∀・)「……はい」

('q`*トソン「押入れを私にくださいっ!!」

(; ・∀・)「……はぁ?」

255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:23:59.37 ID:kNf4jUFw0 [11/26]
('q`*トソン「実は私子供の頃からあるアニメが凄く好きでですねぇ」

('q`*トソン「そのアニメにでてくる青い雪だるまみたいなキャラクターが押入れで寝てるのを見てですねぇ」

('q`*トソン「まねしたらですねぇ」

('q`*トソン「異様に落ち着くことに気がつきましてぇ」

('q`*トソン「それから押入れじゃないと眠れないんですぅ~」

(; ・∀・)「……はぁ」

('q`*トソン「だからぁ、押入れくださぁい」

(; ・∀・)「……どうぞ」

('q`*トソン「やったー! きゃっほー!」

トテトテ

モソモソ

(゚、゚トソン「では、おやすみなさい。勝手に開けたら摩り下ろします」

(; ・∀・)「……」

カララ、ピシャンッ!!

258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:25:26.48 ID:kNf4jUFw0 [12/26]
( ・∀・)「……」

( ・∀・)「……寝よ」

僕は無造作に投げ出された布団を丁寧に敷きなおし床についた。
なんか微妙に焦って取り乱した自分をぶち殺したい気分を早く忘れるために、
とっとと寝てしまうのが一番だと思った。

こうして、僕と教授のフィールドワーク一日目は幕を閉じた。
明日からいよいよ美府の祭りが始まる。
それから荒巻さんのお宅にうかがって
それから

……気付かぬうちに僕の意識は沼の底に沈んでいった。




都村教授伝奇考のようです   『ほらいず様/前編』  了

270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/14(木) 20:33:10.15 ID:kNf4jUFw0 [13/26]
僕はある日満員電車の中で堂々と漫画雑誌を読むほどよくハゲ散らかした頭をした中年の後ろに阿呆面で突っ立っていた。
邪魔だなとか、人の迷惑をかんがえないのかなとかそんな偽善魂溢れる考えを抱きながら僕はちらっと彼の待つ漫画雑誌に目を向ける。
――――おっぱいだった。今までみたどんなおっぱいの絵よりもスバラしいおっぱいがそこにはあった。
思わず釘付けになる。素晴らしいおっぱいたちは数ページに渡って躍動を続け、僕の股間を悩ましく刺激する。
僕はその漫画のタイトルが知りたかった。きっと最後のページにはタイトルがあるに違いない。そう思った僕は必死で中年の背に喰らいついた。
このポジションがベストなのだ。ここからなら彼が持つ漫画雑誌の全てを見渡せる。必死だった。僕はオッパイの虜だった。
やがておっさんは最後のページをめくる。そこには『宗像教授伝奇考』とあった。やった! 僕はついにタイトルを知ったぞ!!

家に帰り早速タイトルでぐぐる。ふむふむ、なるほど、日本の民俗学を扱った作品なのか……。
そういえば学生時代に民俗学や伝承文学を取っていたっけ。よし! あのおっぱいのために僕も民俗学ものを書こう!!

それがこの作品を書き始めた理由です。


                                                    ツン荷台教信者





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